ここ一週間で気温は急激に下がり、秋から冬への季節の移り変わりを嫌がおうにも感じた。まだ霜は降りないものの、朝夕の空気は澄んではいるが冷たく、呼吸をするたび肺がちりりと痛む。顔を洗おうと水に手を入れると、突き刺すような冷たさに眉根を寄せた。けれどテントの方から漂ういい匂いに、水の冷たさなど忘れ、心が踊る。食事時はリッドにとって至福の時間なのだ。ざばざばと一気に顔を洗い、乾いたタオルで拭う。
朝食はなんだろうか。匂いに想像を膨らませる。
オムレツだったら嬉しいなぁ、なんて考えながら足取り軽くテントへ向かった。
テントへ戻ると食事の準備ができているかと思いきや、ぐつぐつといい匂いを出している鍋を放置で、ファラに攻められているキールがいた。いや、そういう意味ではなく。
怒髪天を衝くようなファラに凄まれ、猫を噛めない窮鼠つまりキールは怯えていた。そりゃあそうだろう。彼女は猫ではない。獅子だ。強いというよりヤバイ。
「早めに言ってね、っていっつも言ってるでしょ!?」
「だ、だから別に僕は……」
「嘘おっしゃい! 私を欺こうだなんて100年は早いんだから!」
腰に手を当て、怒鳴るファラ。
いやいや、いつもなんだかんだで騙されてるお前が言うなよ、と。ツッコミたかったが、事態が悪化しそうなので止めて、違う言葉を舌に乗せた。
「何やってんだよ。こんな朝っぱらから」
オレとしては早く飯にしてほしいんだけど。
欠伸をしながら二人に近付く。
するとリッドの存在に気付いたキールが助けを求めるようにリッドを見やった。ファラに攻められていたせいだろうか、少し瞳が潤んでいる気がする。いや、だからそういう意味ではなく。昔からファラに怒られては泣いていたので、それがもう本人の意思とは関係なく反射となっているのかもしれない。だが、素直に助けを求められて悪い気はしない。それがキールなら尚更。彼ときたら普段頼ってはくれないのだから。自分はそんなに信用が無いのだろうかと、たまに本気で凹む。
え、何コレ、オレ、ウルタス・ブイっぽくね?
つい最近観た演劇を思い出す。